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福島に立ち寄っただけで被曝。「普通ならこんな数字が出るはずがない。残念ですが、フクシマはすでにチェルノブイリを超えているかもしれない」(藤井石根・日本科学振興財団副会長)。報じられない恐ろしい事実を紹介しよう
原子力安全・保安院が認めた
日本列島は、新緑が眩しい初夏のシーズンを迎えた。溢れる太陽光も、爽やかな風も、見た目には例年と何ら変わりはない。
だが、それはあくまで〝見た目〟だけだ。事故で大量の放射性物質が撒き散らされたことにより、福島第一原発とその周辺の広大な土地は、取り返しがつかないほど汚染されてしまった。空気も水も大地も、去年までとは変わってしまった。失われた美しい自然は、おそらく、もう二度と取り戻すことはできない。
福島第一原発では、1号機から3号機まで、すべてが「メルトダウン」(炉心溶融)していることがほぼ確実になった。
当初から、本誌では専門家がその可能性を指摘してきたが、政府と東電は「大本営発表」を続け、それを認めようとはしなかった。事故を過小評価し、国民に真実を告げようとはせず、ずっと情報の隠匿を続けてきたわけだ。
「メルトダウン」が起きたということは、原発事故として〝最悪の事態〟が進行中ということである。
仮に、福島第一1号機~3号機までの核燃料がすべて溶融しているとすれば、そこから放出される放射性物質の量は、もはやチェルノブイリの比ではない。
その結果、いま福島県では、恐るべき事態が進んでいる。放射性物質を体内に取り込むことで起きる「内部被曝」が、想像を超えた規模で発生している可能性が出てきたのだ。
この重大事実を衆院予算委員会で取り上げ、原子力安全・保安院に認めさせた、みんなの党・柿沢未途代議士はこう語る。
「全国の原発施設には、体内に取り込まれた放射性物質と、そこから出る放射線を測定する『ホールボディカウンター』が設置されています。実は福島第一で事故が始まった3月11日以降、計測の結果、要精密検査となる数値の1500cpmの内部被曝をしている人が続出しているのです。しかも発覚した4956件のうち、4766件は現場の復旧作業員でもなんでもなく、ただ『福島に立ち寄ったことがある』だけでした」
柿沢氏の質問を受け、答弁に立った原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は、その事実をあっさりと認めた。しかも、実際には1500cpmどころか、「1万cpm以上」という異常な数値を示したケースが1193件もあったというのだ。
「cpm」は〝カウント・パー・ミニット〟の略で、1分間に計測される放射線の数を意味している。日本科学振興財団副会長で、明治大学名誉教授の藤井石根氏は、この事実を前に絶句した。
「4766人が福島に立ち寄っただけとは、正直、信じたくない事実です。しかも、1万cpmを超えた人が1193人とは・・・。普通なら、こんな数字が出るはずがない。残念ですが、福島はすでにチェルノブイリを超えているかもしれない」
また、内部被曝の影響に関する権威で、名古屋大学名誉教授の沢田昭二氏はこう語る。
「cpmは被曝しているかどうかの目安となりますが、1万cpmなどという数値は、深刻な値です。計測されたのは、おそらく体内に取り込まれたセシウムによるγ線でしょう。セシウムからは、内部被曝においてもっとも影響が大きいβ線も出ますが、こちらはホールボディカウンターで測れません。β線は透過力が弱いので体内に留まりやすく、電離密度が高いため、体内でDNAなどの細胞を切断する確率が大きくなる」
重大なのは藤井氏も驚いたように、「3月11日以降に福島県内に立ち寄った」だけで、これほどの内部被曝をしていることだ。
「直ちに人体に影響はない」「現時点では安全性に問題はない」という政府の発表を信じ、福島県内やその周辺には、まだ普通の暮らしを続けている人々がたくさんいる。立ち寄っただけで大量被曝をするような場所にずっと住んでいる人々は、いったいどれほどの内部被曝をしているのか・・・まったく見当もつかない。
「非常に深刻です。直ちに国は、広範囲で被曝調査を行う必要があります。東京にも、風向き次第で大量の放射性物質が飛来します。もはや『心配ない』などとは決して、言えません。
福島第一原発からは、いまでも水蒸気と一緒に放射性物質が飛散しています。福島県の住民の方々には、将来にわたって国にきっちりと責任を取らせるため、被曝者手帳を持たせるべきです」(前出・藤井氏)
ところが、国会で事実を指摘された細川律夫厚労相は、「1080人の子どもを調査したところ異常はなかった。今後もホールボディカウンターによる調査を行う予定はない」と答えた。ここに至っても政府は、「直ちに影響はない」という姿勢を変えようとしない。
「外部被曝による急性放射線症と違い、内部被曝では数年後から10年以上経て発症する晩発性障害が深刻になります。一生涯にわたる影響を与え、場合によっては遺伝的影響のように、世代を超えて障害を引き起こします。
晩発性障害の中で、比較的早く症状が表れるのが白血病で、被曝から数年後に発症し始めます。そして、甲状腺機能低下や肝機能低下、心筋梗塞など、あらゆる障害が起こり得るのです」(前出・沢田氏)
日本政府は、本来「年間1mSv以下」に抑えるべきとされていた被曝量を、大人・子どもの区別なく、なし崩しに「20mSv」にまで引き上げてしまった。
故意なのか無能なのか、震災直後には起きていたメルトダウンについても、2ヵ月も経ってから公表するお粗末。知っていれば逃げたであろう人たちも、これでは後の祭りだ。
さらに、「パニックになるから」(細野豪志首相補佐官)という理由で非公表になっていた、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の被曝データ。地上から18m~20mで放射性物質を測定し、地表より検出される数値が小さくなっていることを黙っていた事実。そして、今回明らかになった、住民の大規模な内部被曝を物語る危機的な現実・・・。
政府と東電は、グルになって事故を過小評価し、情報を後出しし、意図的に「大したことはない」との印象操作を続けてきた。こんなことをしておきながら、東電は「賠償は国が面倒を見て欲しい」と主張している。つまり、税金で自社を助けろと言う。
バカを見るのは結局、彼らを信じた末に命と健康を危険に晒し、なおかつ税金や電気料金を搾り取られる国民ということだ。
平均寿命が20年縮む
実は25年前、チェルノブイリ原発の事故が起きた際も、関係者たちは自己保身と責任逃れ、情報隠蔽に終始した。その結果、どんなことが起きたのかを示しているのが、事故現場となったウクライナの現状だ。
同国は、事故の5年後の1991年に旧ソ連からの独立を果たした。その当時の人口は約5200万人。ところが年々、人口が減り続け、2010年には約4500万人になってしまった。19年で700万人もの人口減、その減少率は13%にもなる。
同国の平均寿命は、かつて75歳前後だったが、5~10年後には55歳ほどに低下する可能性があるという。そしていまだに、チェルノブイリ周辺では、障害を抱えて生まれる子どもたちが多いという(NHK BS世界のドキュメンタリー『永遠のチェルノブイリ』)。
異常な人口減少を、「放射線に対する恐怖心が引き起こす心理的要因によるもの」などと説明する専門家もいる。しかし、一般的には、晩発性の放射線障害が人体を蝕み続けていることが大きな要因と見られる。
こうした事実は、政府も〝専門家〟も、熟知しているはず。にもかかわらず、平気でチェルノブイリの悪しき轍を踏み、さらに責任逃れに走っている〝原子力村〟の人々は、その正気を疑わざるを得ない。
せめて、周辺住民と国民をリスクに晒すのがごく短期間というならともかく、福島第一原発が「収束」に向かうのは、まだはるか先になりそうだ。
原子炉周辺の温度が110度~300度に乱高下し、いまだに不安定な状態が危惧されている同原発3号機について、米国フェアウィンズ社のチーフ原子力エンジニアを務めるアーノルド・ガンダーセン氏はこう警告する。
「3号機の温度が上がったり下がったりしている理由は、事故発生直後、冷却のため海水を大量に注いだからです。現在は水が蒸発して泥が残った状態で、新たに水を注いでも、泥に邪魔されて炉心にまで水が届かない。このため3号機は非常に危険な状態になっています。部分的な再臨界が起きているとも考えられ、再び水素が生じるほど高温化し、水素爆発が起きる可能性があります」
また同氏は、炉心に燃料棒が入っていないため、一般報道では〝ノーマーク〟になりがちな4号機についてもこう懸念を示した。
「4号機の建屋は、M7以上の大きな余震などにより、崩落する危険性があります。これが起きたら最悪の事態です。使用済み核燃料プールにある燃料が全部、空気中に晒されることになる。これから補強工事をするということですが、もしも崩落が起きた場合、米国エネルギー省のブルックヘブン国立研究所によれば、18万6000人が死亡するというデータもあります」
つまり、福島第一の状況は、収束に向かうどころか、いまだに破綻の一歩手前にあると見なければならない。
東京電力は5月17日、事態収拾に向けた「工程表」の改訂版を発表したが、メルトダウンの確定、高濃度汚染水の増加、3号機の不安定性など、不確実要素がいっそう増しているにもかかわらず、「収束まで6~9ヵ月」との見通しを変更しなかった。
彼らの言っていることは〝世迷言〟ではないのか。
「事故は9ヵ月程度では収束しません。メルトダウンが続く3号機は建屋の中がガレキの山で、作業は難航します。2号機は内部の湿度が高く、水素爆発の可能性も残っています。
そもそも『冷温停止させる』と言いますが、圧力容器に循環注水冷却装置を取り付けるのも至難の業。作業員が汚染水などで、大量被曝をする可能性があるからです。年末までに20万tにも達するという、汚染水処理の問題もある。9ヵ月というのは、政府と東電のメンツを守るためのポーズに過ぎません」(元京都大学原子炉実験所講師の小林圭二氏)
敦賀、浜岡でも事故が発生
福島第一の危機的状況の裏では、5月8日に福井県の敦賀原発2号機で、41億ベクレルの放射性ガスが外部に流出するという事故が発生した。41億ベクレルとはかなりの量に思えるが、敦賀原発を管理する日本原子力発電は、「年間規定値の40万分の1で、周囲に影響はない」と説明する。
だが、41億ベクレルを40万倍すると、1640兆ベクレル(1640テラベクレル)。国際評価尺度では、外部への放出量が数百テラベクレル以上になった場合、「レベル5」の事故とされる。〝当社比〟による規定値は高過ぎるようで、クビを傾げざるを得ない。
また、菅直人首相の要請により、冷温停止に向け作業中だった静岡県・浜岡原発5号機では、作業の途中に配管が破断し、海水400tが漏れ出す事故が発生した。そのうち約5tは原子炉内に流入したと見られ、一歩間違えれば、こちらも大事故に繋がりかねなかったことが判明している。
いったい原発の、どこが「安全」だったのか。安全どころか、日常的に故障やトラブルが繰り返される、非常に脆く危ういシステムが、原子力発電所の実態だった。そして福島第一のように、ひとたび大事故が起きれば、人間ができることはほとんどない。水素爆発や水蒸気爆発による〝破局〟の恐怖に慄きながら、ひたすら水をかけ、「鎮まってくれ」と祈るしかないのだ。
前出の藤井氏は、「人が放射能と共存できないことは、最初から分かっていたこと」として、こう語る。
「放射能を効率よく生み出すのが原発ですから、当然、共存することはできません。しかし日本では、驕りと過信から、この狭くて地震が多い国土に54基もの原発を並べてしまった。原発は、できる限り早く止めなくてはなりません。危ないのは浜岡だけではない。もし、福島に次いで他の原発も事故を起こしたら、今度こそ壊滅的打撃を受けます。経済的にも負担をしきれず、国際社会からも見放され、日本は終わりです」
この期に及んでも「原発は必要だ」とする推進派は、「不測の大停電が起きる」「電力が足りなくなり、日本経済も産業も立ち行かなくなる」と言う。
しかし、果たしてそれは本当か? 答えは「否」だ。環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は、
「電力は足りています。54基の原発すべてを止めても停電にはなりません」と断言する。
「東京電力は、福島第一の事故直後に夏場の電力不足を示唆していましたが、実は供給量の中に揚水発電を入れていませんでした。また、福島県の広野火力発電所も、当初は復旧の遅れが伝えられましたが、7月中旬には運転再開できる見通しです」(飯田氏)
東京電力は震災直後に約3100万kWまで落ち込んだ電力供給能力が、8月末までに5620万kWまで回復すると発表した。昨年7月23日に記録した最大消費電力が5999万kW。この程度の電力不足なら、企業や個人が節電を心がければ、解消できる範囲内だ。
さらに民主党の衆院科学技術・イノベーション推進特別委員長の川内博史代議士によれば、ここからの上乗せも可能だという。
「たとえば、日本全国には企業の自家発電分が約5600万kWもあります。東電の管内だけでも約1600万kW。他にも、国内には独立系事業者による発電能力が2135万~3495万kWもある。電力は十分にあるのですから、原発は順番に止めていけばいい」
つまり、「電力が足りない」というのは、原発を止めたくない電力会社のプロパガンダに過ぎない。そして川内氏は、「電力供給を柔軟に行うためにも、発電と送電を分離する、電力の自由化を大いに進めるべし」と語る。
これでもまだ原発なのか
実はここにも、電力業界の保身の論理が隠れている。独立事業者や企業が発電をしても、それを送るには送電線を使わなければならない。しかし、独占体制が崩れることを怖れる電力会社は、送電線を自由に使わせないことで、自由な電力供給を排除している。
東電は原発事故の賠償を「国策だから」と税金で支援するよう要請している。一方、同じく「国策」で作ってきた送電線は、自分たちの既得権益を守るため、他者には使わせない。そして「電力が足りない」と騒ぐ。こんな業界の自分勝手な理屈を覆すためにも、電力自由化は必須なのだ。
同時に、太陽光や風力、地熱などいわゆる「再生可能エネルギー」への転換を進めていけば、〝脱原発〟は十分に可能となる。
「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、日本の潜在的な再生可能エネルギーには次のようなものがあります。
●太陽光→2万9550メガW(メガは100万)、火力発電所30基分
●風力→78万2220メガW、同782基分
●地熱→2万540メガW、同20基分
●中小水力→2万7600メガW、同28基分
これが普及するかは、国の姿勢次第です。技術はすでに完成しています。急げば10年で、総電力の約30~50%を賄えるようになります」(前出・藤井氏)
再生可能エネルギー利用の先進国・ドイツのNGO、ワールド・フューチャー・カウンシルの気候・エネルギー部門ディレクターのステファン・シューリッヒ氏は、日本での普及のためのヒントを語ってくれた。
「政府と原発関係者の癒着のような関係は、ドイツにもあります。ただ、ドイツでは電力の自由化後に、再生可能エネルギーに投資した人は一定期間リターンを得られる法律ができました。たとえば20年間、風力発電に投資すれば、1kW/時ごとにリターンが得られる、というようなものです。この仕組みにより、ドイツではここ10~15年の間に、再生可能エネルギーが爆発的に広がりました」
一度作ってしまえば、そのランニングコストや巨額な廃炉費用は電気料金に上乗せし、電力会社が一方的に儲け続けるのが原発中心のシステムだ。その上、事故が起きたら、そのコストも国民に押し付けられる。
命や健康を危険に晒されつつ、最終的に数十兆~数百兆円単位の負担を強いられるくらいなら、同じコストを再生可能エネルギーに投じたほうが、はるかに賢明なのは自明の理だ。
ウクライナではチェルノブイリの悲劇を経験しながら、国力の疲弊のため、さらに20基以上の原発を新設して、電力を欧州に輸出する計画が進んでいるという。日本は絶対に、同じ轍を踏むべきではない。
20年以上前から「脱原発」の論陣を張り続け、再生可能エネルギー社会に注目してきた作家の池澤夏樹氏も、こう語る。
「産業界は福島第一原発の事故の後も、産業が潤うためには原子力が必要だと言っています。放射能に汚染されて人が住めない国土を作り、市民を自宅から大勢追い出したというのに、これほどの惨状を前にして、まだあなたたちは原子力が本当に必要だというのか。
今回の事態はあまりに不幸でしたが、もしも救いがあるとすれば、日本が変わる契機になるかもしれないということです。大地はこれほど大きく揺れるものだと分かったし、電気も止まり、原子力の安全神話も崩れた。不幸ではありますが、生き方を深く考える機会になりました。
いまは、後に『あの時が時代の曲がり角だった』と言われるような時期なのだと思います。日本全体で、旧来の方程式を換えねばならない。そうでなかったら、亡くなった方々や住む家を奪われた大勢の方々に、申し訳がありません」http://www.blogger.com/img/blank.gif
いま変わらなければ、いつ変わるのか。「がんばろう、ニッポン」とは、この国が変わることを怖れない、躊躇しているヒマはない、ということだ。
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-- 出典 : http://gendai.ismedia.jp/articles/-/6318